第5回  アンナとニナ

どんよりした空の日曜日。
近所のカフェで簡単に朝食兼昼食を済ませた広瀬。

セットメニューを頼むとデザートのケーキが安くなる広瀬お気に入りのお店だ。
こじんまりとした作りで、お客の出入りも少ないので落ち着ける。

店には小さいテーブルと椅子が2脚と外を眺められるカウンター席、
すぐ外の歩道側にこれもテーブルと椅子が2脚。

ガラス越しにお茶を飲んでいるカップルを眺めるともなく見る。
独りならともかく、二人なら寒さは感じないのかな、とも思う。

時計を見てから、懐から携帯と手帖を取り出す。
ページをめくりそこにある番号を一文字づつ確かめるようにして
電話をかけてみた。まだ、入れてなかったのでメモリーに登録する。

六回目の呼び出し音で相手が出た。

「ハロー」
「アンナ?ヒロだよ」
「ふぁー、おはよう、どうしたの」

その眠そうな声に少し早かったかと後悔する広瀬。

「どうしたって、今日電話くれっていってたじゃん」
「あぁ、そうだったわ。私ったら、ごめんね、もうそろそろ起きなきゃ、ふふふ」
「なにおかしいの?」
「貴方の事を思い出すと、あそこが疼いてくるのよ」

アンナは右手に持った携帯を左手に持ち替え、空いた手をパンティの上、
陰部の辺りをさすってみるのだった。

「ねえ、なにかいやらしい事、言って」

この女は本当に淫乱だな、でもそれが堪らない。
広瀬は自分の物にも力がみなぎってくるのを感じた。

周りを気にしながらも静かな低い声で「そうだなぁ、まず、姿見のあるところに行けよ」と
命令した。

アンナはパンティを脱ぎ捨てて、タンクトップ一枚の姿でクローゼット脇、
姿見の前に立った。

髪を染めていないその自然な栗色のショートヘアと隠されてはいるが豊満な胸、
白い腹部から滑らかな曲線で繋がる臀部が、完璧なマネキン人形のようだ。

「反対側の壁に手をついて、尻を突き出して、鏡を見ろ!」

真っ白な尻を突き出しすと、陰部の割れ目、その赤いものがいやらしくきらめいていた。
既に滴る愛液で。

我慢できなくなったアンナは、携帯を床に置き、自らも床にひざまずき、
顔を床に押し付け尻を突き上げる形をとった。実像と虚像が向き合う乳白色の美しい造型物。
しかし中心にうごめく物は、、、

「指を出し入れしろ、一、二、三、ゆっくりとだ!」
「あぁ、ヒロ!、もっとはやくしてもいい?!」
「だめだ!御主人様と呼べ!どうなってるんだ、あそこは?」
「はい、御主人様!クチュクチュと音をたてて、あぁ、指を締め付けてるわ、ハァハァ」
「携帯を俺の物だと思って嘗めろ!」

アンナは顔のそばに置いた携帯に舌を伸ばして、嘗めはじめた。
陰核は充血して大きくなっており、白い指が摘み、撫で回し、快感が波の様に押し寄せる。

「ピチャピチャ、はぁー、おいしいわ、御主人様の固いあれが」
「よし!、そのまま嘗めながら、早く指を動かせ!」

肩で荒い息をつきながら、動かす指。それを伝って流れた物で太もも、床で光っていた。
二人のアンナがこちら側と鏡の中でその真っ白な尻を向けあい、身悶えしている。
それを思うと広瀬はコートの影で爆発寸前の物を押さえ切れなくなっていた。

「いくーっ」

アンナは尻をひくつかせたかと思うと、すぐにうつ伏せの姿勢で動かなくなった。
陰部に入っていた指はそのままの状態で。もっと欲しいとでも言う様に。

その叫び声を聞きながら、広瀬は逝きたくとも逝けない自分の状況を呪った。
店主が怪訝な顔をしてこちらを見ているが、まあいい。まさかこんな事をしているとは
及びも尽きまい。

「アンナ?、アンナ?」
「うーん、初めてよ、初めての体験だわ」

床に足を投げだし、壁に背を預けた格好で、頬が紅潮している。まだ息は荒いようだ。

「どうする、今日は」
「そっちに出向くつもりだったけど、こっちに来れる?」
「あぁ、駅でね。四つ目?だっけ、わかった、じゃあそこで」

コートを着ているとはいえ、この状態では歩くのも大変だ。
少し収まってからと思い、スイーツを追加注文した。時間調整にもちょうどいい。
苺パフェを平らげて店を出る広瀬に、思いのほか冷たい風も心地よく感じた。

Sバーンに乗り込むと、ジャージ姿の学生が楽しそうにお喋りをしている。
三つ編みをした髪の毛が屈託のない笑いと一緒に揺れていた。

外の景色を眺めていると目的のリヒテンブルグ駅には程なくついた。
閑散とした駅を出て、左手に歩くとすっかり葉を落とした紅葉樹の並木道がつづく。

落ち葉を踏み締めながら行くと、向こうから子供の手を引いたアンナがいた。
向こうからはすぐに分ったようで、手を振っていた。やや足早で近付く広瀬。

「こっちの方とよく分ったわね」
「たまたまだよ、どんなところか見てみたいしね」
「ふふ、せっかちね、私が案内してあげるわよ。これが私の娘、ニナよ」
「ハロー、初めまして」

ちょっとはにかんで母親の影に隠れてこちらを見るその子は、
金髪のお下げ髪でクリッとした瞳が愛らしい。

「5歳なの、可愛いでしょ」
「そうだね、母親に似ているね」

まんざらでも無さそうにうなずくアンナ。男の前で見せる顔とは明らかに違い、
慈愛に満ちていた。
ニナを真ん中は挟んで手を繋ぎ、落ち葉の道を行く三人。

「普段はお母さんに預かってもらっているでしょ。久しぶりだわ、一緒に外に出るのは」

交差点を右に曲がり程なくすると、公園が見えてきた。人もまばらな静かな所だ。
その片方には円形劇場のようなスペースがあり、夏には野外劇のような物が行われるのであろうか。

もう少し奥へあると子供を抱く兵士の像があった。
これは第二次世界大戦でベルリンを制圧したソビエト軍の将兵を称え、又、
鎮魂する慰霊の像であろうか。

「ここは、昔、東ベルリンだったよね」
「そうよ、静かでしょ、人込みは嫌いなの、私のお気に入りの場所」

男と女の思考にはこんな所で違いが出るのかな、
女には政治や歴史よりも、「今」が大事なんだと。そんな事を思いながら、
兵士の像を見上げた。

「ニナの父親はね、」
何となく家族、いや、元家族の話になっていた。

彼は証券マンとしてかなりの成績をあげていた。株式不況のあおりを受け、
損失を取り戻そうと顧客と仕組んだインサイダー取引が発覚。

長期の実刑を受け、出所したが、その後、酒と薬物中毒となり、傷害事件をおこす。
損害賠償など手元に残った物は一人娘のニナだけだった。

彼女は彼を見切り、離婚は成立。彼は親権を得ようとしたが、認められるはずもなく、
一時期ストーカー行為で裁判所から接近禁止命令を受けた程だ。

「父親が必要だとは思わないのかい」
「どうかしら、ちゃんと愛情を注いでいれば大丈夫よ、片親でも、
ふふっ、でも今の私にはそんな事も言えないわね」

やや自嘲ぎみに話す彼女の腕のなかでニナは静かな寝息をたてていた。
広瀬とじゃれあって、疲れたのか。彼もその寝顔に安らぎを感じた。
遠くからみれば、親子三人の昼下がりとでも人の目には写っているのかもしれない。

「お休みは?」
「ん、ああ、ちょっと忙しくててね、休みが取れないんだ」
「働き者ね、カロウシするわよ」
「ははは、大丈夫だよ」

ニナをおぶってバス停まで歩く。良く眠っている彼女を起こさないようにゆっくりと。

「じゃあ、また電話ちょうだい。今日はママが泊まるからダメだけど、今度はアパートに招待するわよ」

軽くキスをして、彼女を先にバスに乗り込ませる。運転手に声をかけ、広瀬もそのまま車内に入る。広瀬の背からニナをアンナが抱えるようにして受け取った。

歩道から手を振り見送る広瀬。アンナにウソをついた事にやや後ろめたい思いではあったが、
モニカの誘いへの期待がその思いを打ち消すのであった。

携帯を取り出し、モニカに連絡を取る。
ん?出ないな。もう一度かけ直してみると、やっと出た。

「ハロー、モニカ?」
「ハロー、いいえ、モニカは今、出かけてるわ」
「私はヒロセといいますが、失礼ですが、貴方は?」
「ええ、わたしは、、、」

この人は一体、誰なのか?!
© 渡辺 田中 24
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