第34回  年の瀬の夜

「まだ紹介してなかったけど、、、結婚するんだ、彼女と」
芳克はちょっと照れながら、焼香に訪れた彼女を目線を走らせた。

「あ、泣いちゃってるな。ホント涙もろいから」
困ったような顔の弟も所帯を持つのかと思うと、急に頼もしく見えてきた。

「なんだよ。そうなのか。事情を知らない俺としてはびっくりしたよ」
母親らしい人がしきりに彼女を慰めていた。

「で、どこの人?」あんな美人、何処かにいたかな、と広瀬。
「笹川建設の美樹ちゃんだよ」満足げに芳克が答えた。

広瀬は驚いた「あの!?」
「うん。ちょっと行ってくる」返事もそこそこに芳克は彼女の方へ行ってしまった。

WICA、世界協力基金と密接に結びついているともっぱらの噂のある笹川建設。
関係する省庁に強力なパイプを持っているらしい。

社長の笹川幸三は親父との付き合いが深いから、かなりの仕事を貰ったのは容易に想像が付く。

挨拶をしに、芳克の後に続いて棺に向かう。近付くと美樹の美しさが一段と際立つ。
一通り今回のお礼を述べ、笹川社長の様子を聞いてみた
「お父さんは?」

「えぇ、どうしても来ると言って聞かないのですが、ドクターストップが掛かりましたので」
申し訳なさそうに喋る仕種もかわいらしい。

式次第は滞りなく進み、広瀬一家の面々達も藤沢の自宅に引き上げた。

久しぶりの家で芳克と酒を酌み交わしながら、笹川建設の話が出るとはなしに出た。

「こっちはお前が継ぐとして、笹川建設はどうするんだ」
「あぁ、兄貴が継いでくれりゃ、いいのに」と芳克はグチめいた事を言い出した。

「悪いね」やはり心の中に思っていたのかな、申し訳なさそうに広瀬は呟いた。
「はは、冗談、冗談。やってみればなかなか面白いし」芳克それを打ち消す様に笑顔で言葉を継いだ。

「うん、実は、、、笹川の親父も後継者がいないし、ここでウチとの合併話があるんだよね」
「ふーん、美樹ちゃんと結婚するんだからそれもありって事だろう」

「公共事業が当てにならないなら、世界協力基金でやっていこうという腹だよ」
「これから忙しくなるな」心なしか芳克の顔が引き締まった。

「ところで、いつドイツに戻るの?」
「大晦日か元旦あたりかな。向こうではクリスマス休暇が終われば普通の日になる訳だし」

夜が更けるのも忘れて語り合う二人であった。

その頃ドイツのオフィスではファックスが音を立て、ある文書が届きつつあった。
© 渡辺 田中 24
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