第33回  クリスマス

金田にとっては何度も訪れた事のある広瀬の部屋であった。
それが今夜は彼の女、慶子と一緒であるとは想像だにしなかった。

後ろにいる彼女の気配を感じながらそんな事を思っていた。
気配、いや、匂いだろうか。甘く切ないものが漂う。

「意外ときれいにしてるのね」
整理整頓された室内を見ての彼女の第一声であった。
自分の選んだ男の生活をチェックして満足したかのような。

「あいつらしいだろ」
カーテンを開けながら金田は彼女にあいづちを打った。
窓の外は街路沿いのクリスマスイルミネーションが色鮮やかに輝いていた。

「ちょっと待って」
一旦つけた部屋の明かりを消す為に居間の入り口に歩み寄って、スイッチを切った。

「うわー、綺麗だわ。いかにもクリスマスといった風景だわね」
慶子は窓際に立って歓声を上げた。
最高のシチュエーションかもしれない、そう金田は思いつつ彼女の横顔を見ながらうなずく。

「それで、克也は?」
こちらを向いた彼女の視線を避けながら、口籠りつつ答える。

「うん、実は今、日本だよ」
「に、日本って、まさか。だって、、、」

驚きよりも怒りが込み上げて来るこの感情は何だろう。
この処いつもはぐらかされている広瀬への不満なのだろうか。
鉾先は金田に向かうしかなかった。

「だったら何で電話してくれない訳!!」
「お父さんが、、」

金田は彼女の剣幕にたじたじしながらも、なだめ役に終始した。

「それは君も移動中、そう、そうだよ、機内だったりしたから、その、、」
「、、、わかったわよ」

悔しさに涙で潤んだ目から、彼女の心が分かったような気がした。
それは「憎しみ」ではないかと。

そっと彼女の肩を引き寄せて慰めるようとする金田の手を払い除けて
ぐずくずと鼻を啜りながら、しばらく外を眺めていた。

「君、妊娠してるんだって?」
「な、、なんでそんなこと、あなたが!?」

まさか金田の口からその言葉を聞くとは思わない慶子は狼狽し、睨み付ける様に言った。

「克也ね。克也から聞いたのね!」
窓際から離れ、部屋の中央に歩んでから、叫んだ。
まったくなんて男なのかしら。そんな事を友達とは言え関係ない人間は話すなんて。

「かず、、」
えっと振り返り、金田の発したその名前に耳を疑った。

「和子だよ」
顔の表情は伺えないものの、少しく愉快そうな雰囲気を漂わせた口ぶりである。

「そ、そんな、なんで!」
「ふふっ、世間は狭いもんだね」

「聞いたよ。妊娠してもいないのに、御丁寧に診断書まで作って、男の処にやってくるなんて」
「嘘よ!そんな事!」

慶子は金田に詰め寄り掴み掛からんばかりの剣幕で怒鳴った。

「まぁまぁ、落ち着いて」
いかにも理解者であるといった風で彼女の量肩にに手を添えて言った。

「じゃあ、何なの?、なんで知ってる訳?」
混乱した状況を整理出来ない彼女は金田に詰め寄り如かなかった。
また自分の狙いを見抜かれた事を覆い隠すがごとく。

「和子とは腐れ縁でね。それで色々と情報も入って来るんだ」
曖昧に口を濁しながら彼女の目を覗き込みながら、告げた。

「広瀬はね、、、」
© 渡辺 田中 24
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