第32回  送り迎え

ビジネスクラスの至れり尽せりのサービスは気が紛れて、それなりに心地よい。
親父の死は唐突だったが、それもまた人生。
やりたい放題に生きてきたと常々言って、妙に納得するところもある。

「ミスター、ヒロセ、飲み物は如何されますか」
飲み物のチョイスは多いので、却って迷ってしまう。

折角だから、あまり飲み付けない珍しいものを頼んでみようかな。
結局、無難なものを選んでしまうところ、母親に似た性格なのだろう。

「熱いですよ」
年輩のアテンダントから笑顔でカフェラテを受け取る。
カスタマーサティスファイを考えてベテランを配置しているのだろう。

若くて可愛い娘はエコノミー担当だったりするのは如何なものか。
そんな事をあれこれ考えているうちに、到着も間近となった。


成田は既に年末の混雑が始まっているようだった。
楽しそうな顔、顔。

その人の流れに逆らう様にタクシー乗り場まで出た。
到着の連絡をしようと、母、勝子の携帯にかけるが繋がらない。

そのままタクシーで藤沢の自宅まで戻るか。とりあえず広瀬はタクシーに乗り込んだ。

江戸橋インターチェンジを過ぎた頃にやっと連絡を取る事が出来た。

「母さん、着いたよ。今、江戸橋。タクシーだよ」

一応の段取りは既についており、会社関係者の都合も考えて横浜市内での葬儀となっていた。
そのまま斎場に直行する事にした。

車寄せは引きも切らずに弔問客の車が行き来する。広瀬が降りると、
弟の芳克が待っていた。

「あぁ、兄さん」
「よう、大変だったな。疲れた?」

ラグビーで鍛えたその体躯も喪服に身を包むと幾分小さく見えた。

「そうでもないよ。会社のお偉いさん、親戚、葬式屋で仕切ってるから、
特にやる事もないよ。そっちも長旅で疲れたんじゃない」
「それなりだよ。さぁ、いくか」

ずらりと社員が並んで弔問客に対応をしている中を奥に進むと
あれこれと指示を飛ばしている母が見えた。

克也が分ったであろう、ゆっくりとこちらに母が歩いてくる。

「お疲れさま」こころなしか涙目であるのは緊張が溶けてホッとした様子なのかも知れない。
「一番大変なのは母さんだよ」

「ところで俺、何やればいいの」
「なーんにも。お父さんの顔、拝んであげて。あと、親戚には顔だして挨拶しといてね」
目尻をハンカチで押えながら、弔問客の方へ。

葬儀が始まると金や木魚がホールに響き渡り、なにか賑やかな印象だ。
あの世への門出を盛大に見送るようである。

「親父らしいな」

焼香が始まり、次々と人の列が流れていく。
そこで、1人の女性が泣き崩れていた。

妙礼の美人とは穏やかではない。まさか、、、

一方、ベルリンでは。

慶子は広瀬のアパートメントの前まで来ていた。

「確かここだわよね、、、」
少し不安げな表情で貰ったメモと住所表示を見比べていた。

ポン! 後ろから肩を叩かれて、ビクッとし、振り返ればそこには、
「金田さん?! 、でしょ。嫌だ-、びっくりさせないでよ」

何があったかとの驚きと知り合いに会えた安堵感とが綯い交ぜになり、
声が上づってしまう。

「久しぶりだね」

金田の方はといえば、ますますいい女になった彼女との再会を違う意味での期待が込み上げていた。

「え!?克哉は。部屋なの」
「うん、まあ、いろいろあって。とにかく鍵を預かってるから彼の部屋に行こうよ」
「えっ、えぇ」

事情がよくのみ込めないが彼に続いて、建物の中へと入っていった。
© 渡辺 田中 24
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