第30回  帰宅

既に休暇シーズンも近いので、席の混み具合もミュンヘンに来た時とは大分違う。通路ですれ違うのも一苦労。



「席は、っと、、、」切符と座席の番号と見比べながら、車両の中央まで進む。前方はかなり賑やかだ。妙齢の夫人達がグループで旅行のようだ。



広瀬の席はその人達の占める席の端になっていた。少々うるさいか、いや、賑やかでいいかな。そう思いながらバックパックをアッパーストレジに入れる。



列車は時間都通りに静かにホームを離れた。持ち込んだ軽食を食べながら景色を眺めるともなく見る。田園地帯の緑が目に優しい。



御夫人達も話声もいつの間にか静かになり、寝息すら聞こえてきた。

それが伝染したのか広瀬もいつの間にか眠ってしまった。



夜半に着いたツォー駅ではこの時間にもかかわらず夜行に乗ろうとする

人達なのだろう、あちらこちらで談笑する人々の明るい声が聞こえてくる。



「んー、着いたな」大きく伸びをしてから、Uバーンへの乗り換えを急ぐ。慶子もこちらに向かっている事を思うと、複雑な心境になる。



嬉しいのか、悲しいのか。まあ、いずれにしろ逢ってからだ。

寒風から身を守る様に襟を合わせ、バックパックを背負い直し足早にプラットホームへの階段をかけ降りた。





アパートの入り口を過ぎた所にある郵便受けには請求書やダイレクトメールが
溢れんばかりに突っ込まれていた。



その束を抱え、年代物のエレベーターに乗り込む。届いた請求書の類いに目を通していると、携帯が鳴った。

マリアからだった。



「ねえ、そっちに行っていい?」甘ったるい声が彼女の肢体を思い起こさせる。

慶子が姑くこっちに滞在する事になれば、会えないしな。



「ああ、もちろんさ。しばらく連絡しないでごめん」

「ふふ、いいのよ。じゃあ30分後に」



部屋に着いて郵便物はテーブルに、バックパックはソファーに放り投げて、急ぎ

熱いシャワーを浴びて、彼女の到着を待った。
© 渡辺 田中 24
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