第29回  リレーション

ポーン、ポーン



シートベルト着用のサインがついて、LH機は最終着陸体勢に入った。



田中は彼女の肉体に対して未練があり、べたべたとまつわりついていた。



行きずりのアバンチュールとしか思っていない慶子にしてみれば

そんな態度も煩わしくなってくる。



「見られてるわよ」周りの乗客を言い訳に、体よく彼の手をはねつけた。

「うん、、、」そう言われて田中もしぶしぶ手を引っ込めざるを得なかった。   



フライトアテンダントは乗客のシートベルト着用状況を確かめに通路を歩いている。

グラス片手に談笑していた人達も急いで席に着いた。



田中は胸の内ポケットから財布を取り出し、その中をまさぐる様に何かを捜していた。



「お客様」

田中が顔をあげると斜上方に乳白色の肌が妖艶な
青い目のブロンドアテンダントが笑みを浮かべて立っていた。



「シートベルトお願いします」

「あ、ああ、OK」



こんないい女が乗ってたのか。
通り過ぎた後ろ姿を見送るとその腰の線が悩ましい。
慶子は窓に簡易枕を押し当てて、目を閉じている。



一度やってしまうと他の女に興味が遷っていく。いや、遷る訳ではなく

女への興味は無限大だと言う事だ。



中断された作業を続けながら、そんな事を考えていた。

田中は見つけた物を丁寧に折り畳み、白いものと合わせた。



その上にペンで何かを書き込んでいる。それを右のポケットに入れた。



窓から白い雲が流れる様子が見え、飛行機が降下しているのが分かる。

慶子はそのまま目を閉じていた。



フラップが大きく動いて揚力を得ようと最大まで下ろされた。

衝撃もなく、自然に着陸していった。そのテクニックに対してであろう、

乗客の中から拍手が起こった。



逆噴射の轟音の中、慶子はチラと彼の方を見た。



何かしら緊張した顔つきをしていた。飛行機の離着陸は苦手と言っていたっけ。

ああいう事になったからって、すこし馴れ馴れしくし過ぎだわ。



もう逢う事もないだろうけど。

このままお別れね。なかなか良かったけど、あっちの方は、ふふ。



別れ際がさっぱりしているのは女、後を引きずるのが男、と相場は決まっている。



田中は彼女が起きる様子がないので、しかたなく、ポケットに仕舞った物を

前のポケットに挟んでいる彼女のポーチにそっと差し込んでおく。



機体がブリッジに接続され、停止すると一斉に乗客は立ち上がり、通路に列を作った。

田中も上の棚からブリーフケースを取り出し、それに並んだ。

列が動いた時に、彼女に目をやり、軽く軽くガッツポーズをした。ある期待を込めて。



ぞろぞろと乗客が動く気配で、慶子は目を開けて自らも降りる支度をした。

逢ったら何を言おうかしら。田中の事は忘れ、頭の中は既に広瀬との再会の事に切り変わっていた。





あらかた乗客が降りた後に、機体後方から前方に歩いていたエリザベスは

ポケットにポーチがあるのを見つけた。



「ねえ、忘れ物があるわ」彼女は同僚のアテンダントに声をかけた。

「Aの30?、どんな人かなんて憶えてないわよね」



「たしか、、」エリザベスは肩幅の広いビジネスマン風の男を思い出した。

その彼の連れだったかしら。女性が座っていたはず。



「そのまま地上勤務の人に届けて」同僚はそう言って歩き出そうとしたが、

「待って」と彼女が引き止める。



白い紙、名刺がポーチから飛び出ていた。見ると住所と電話番号が書いてある。

「見て。これ連絡先じゃない。私たちの宿泊先から近いじゃない」



だからどうなの、と肩を竦めて

「自分で届ける気? 会社のルーティーンに反するわ」

「そうね」同僚の言葉にそのまま応じたエリザベスは、、、
© 渡辺 田中 24
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