第23回  帰路

「ママ、一緒にいく?」
「私は家に残ってるわ」

ミュンヘン駅にゼナは来ないようだ。
起き抜けのガウンを羽織った姿は妖艶な雰囲気を漂わせていた。

アンナは食事を終え、自室でお化粧をしに行った。
残されたゼナと広瀬。

「残念だわ。あなたが戻ってしまうと、アンナが寂しがるわ」
「それ、皮肉?」にやりと口の端をつり上げながら広瀬が聞いた。

「君はどうなんだ」

少し声を落として、椅子に腰掛けた彼女の後側に回る。

「愛してるよ」
「ふふふっ、私もよ」

お互いに冗談とも、本気ともつかない刹那的な言葉をマジわしながら、
仰向けたゼナの唇に広瀬の唇が合わさる。

同時に彼の右手が彼女のガウンの襟を奥の方に進んで行った。
ブラジャーをしていないそのふくよかな乳房を愛おしいもののような優しく握る
。

乳暈を人さし指で撫で、親指とともにキュッと乳首を摘む。もう勃起している。

合わさった口が離れても、互いの長い舌を吸いあう音が微かに
ダイニングルームに響く。涎がゼナの顎、胸元に滴り落ちる。

ゼナの左手が広瀬の股間を捜していた。
膝をまず見つけ、次第に上方に移動して行く。

辿り着いたそこはもうカチカチに固くなっていた。
弾ける事が出来ず居切り立っているものを慰める様に撫でさするゼナ。

「もう時間だ」唇を離して、にっこりと微笑む広瀬とゼナ。
「忘れないでね。ここ」

ジーンズの上から五本の指でギュッと膨らんでいる部分をひねる。

「いっ!」
「あっははは、ちょっとしたバツよ。じゃあ、気を付けてね」
「あっああ、君もね」

恨めしそうな顔の広瀬にゼナは微笑んで
彼の頬にチュッと大きな音で口付けをし、ガウンの裾を翻して
行ってしまった。

それと入れ違う様にアンナが入ってきた。
ドアの辺りで二事三事話していたようだ。

「じゃあいきましょう」晴れ晴れとしたアンナに促されて、
バックパックを背負い、彼女の家を後にする。

ゼナが食卓の片づけをしているとアンナの飲み忘れた
プロザック錠がある事に気付いた。「あら、あの娘ったら」

アンナのオペルを駆って
ミュンヘン駅までの道すがら、広瀬は彼女に聞いてみた。

「さっきお母さんはなんて言ってたの?」
「あなたに気を付けなさいって」前を見ながらアンナが言う。

「な、何を気をつけるんだって?」
「ふふ、浮気の事じゃないの」

「ばっ、バカな」広瀬の笑いが引きつっていた。

「冗談よ。私たち、夫婦でもないんだから。でもお互いの間で
隠し事はナシにしない?」

助手席の広瀬を見る彼女のまなざしからは真剣さが伝わってきた。

突然、広瀬の視界に黒いものが。

「前!」

トレーラーの鼻面がフロントガラス一杯に広がった。
© 渡辺 田中 24
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