第21回  予兆

「ねえ、起きて。着いたわよ」

その夜はサウナ室での出来事とシャンパンの酔いからであろう、
アンナの家に着くまでに車の中で眠りこけてしまったらしい。

「んー、もう着いたんだ。早いね」
「ふふふっ、乗り込むと同時に眠っていたわよ」

彼女は右手のひらで軽く広瀬の頬を頬を撫でた。
広瀬はその手の甲に軽く口付けをした。

「ねぇ、今晩は?」欲情がその瞳の中にかすかに見てとれた。
「ん? ああ、今日は疲れたから、すぐ寝るよ」

何で疲れたかは説明する事も出来ないが、、、
ちょっと残念そうな表情を浮かべたが、すぐに
「そうね。ちょっと退屈だったかしら。あのオペラは」
と言ってくれた。

そう思っていてくれると助かる、少し心苦しくもあるが。
運転席のアンナの頬にも軽くキスをした。

ゼナはもう寝ているのか、家の中は静かだった。
「しーっ」アンナは大仰に唇の前に指をたてて見せた。

その唇が薄暗い闇の中でぬめぬめした生き物の様に光るのが見え、エロイ。
普段ならばそれにも下半身が反応するのだが、今日の広瀬は眠かった。

「それじゃおやすみなさい」
お互いの唇を合わせて、物音をたてない様に部屋に戻る。

ベットに倒れ込むと同時にそのまま泥の様に眠り込んでしまった。

ーーー

ドンドンと扉を叩く音がする。目を開けると外はまだ薄暗いようだ。
「なんだよー、一体」

入り口の方に目を向けると、ドアノブが回って、扉が開いた。
ネグリジェ姿のアンナだ。ベッドに駆け寄ると広瀬にむしゃぶりついた。

「どういう事なの!?、あなたは私の母と関係を持った訳!?」
「ん!な、なんだよ、いきなり。そんな訳無いだろ」

大粒の涙を流しながらも、アンナは広瀬にしがみつき、胸元を掴んで
怒気を含んだ罵声を浴びせた。
「この! 人でなし!」

扉の所に白い影が現われた。それはゼナだった。
体を覆うものは何ひとつ身に付けていない。

「ヒロ、今夜もたっぷり楽しみましょう。あら?アンナも居たのね。じゃあ
3人で。とっても興奮するでしょ。母と娘を一緒に突き刺せるなんて。
あなたの太いものもカチンカチンになるわよね、きっと」

淫乱な笑みを浮かべながら、ベッドに近付いて、シーツをめくりあげると
寸分違わず、広瀬の股間をぎゅっと握り、愛おしそうに撫でさすった。

泣叫ぶ娘と淫婦のコントラストに広瀬は呆然としていた。
すると、足元の方からは、しばらく聞いていなかった日本語が、、、

「これがあなたの子供よ。さあ、抱いてあげて」
「慶子!」そちらには、乳飲み子を抱えた彼女が立っていた。

頭を抱えた瞬間に、汗をびっしょりかいてベッドの中で丸まっている自分に
気がついた。

「正夢? まさか、、、今日はベルリンか」
ぼんやりと明るくなった天井を眺めながら思った。
© 渡辺 田中 24
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