第20回  オペラ

「Eccomi Qua!」

舞台の上を腕を広げながら囁き、歩き、時には走り回りながらドタバタと
役者たちがこれでもかと愛の駆け引きを繰り広げている。

劇場の比較的前方に位置する席なので、息遣いさえもよく聞こえる。
イタリア語の軽い雰囲気が軽快な雰囲気を醸し出す。

「ふぁー」眠気をかみ殺す様にうつむき手で口を押さえる。
「しーっ」 こちらをちょっと睨むようなアンナ。

話の筋がよく分からないのもあり、昼にカレン、ゼナとのお楽しみで
体力を消耗した事も関係しているのだろうか。

それにしてもゼナと深い関係を持ちながらその娘と今晩は観劇とは。
少し複雑な思いもあるが、、、

「あんまりメジャーなオペラではないね」
「まあね。モーツアルトの初期のものよ」

にこっと微笑む彼女。手を伸ばして彼女の太股におく。
それをそっと柔らかい手が覆う。

舞台が暗転して、客席が明るくなり、休憩となった。
熱くオペラについて語り合ってる人もいれば、大きく延びをして
談笑している人もいる。

ぞろぞろとロビーの方へ皆が出ていく。

「行こうか」
「ええ」

手を繋いだ二人の出で立ちはクルーネックセーターにジーンズのお揃いだ。
カジュアルではあるが品の良さがでていた。

「タキシードみたいな人ばっかりと思っていたよ」
「ジャケットあった方がいいけど、気軽に聞きに来ている人も多いのよ」

それだけ常日頃の娯楽という事か。

ロビーでは簡単な軽食と飲み物、アルコールなどもある。
広瀬は少しお腹が空いたので、サンドイッチを注文する。

「君は?」
「じゃあ、わたしも」

飲み物はグラスに煌めく気泡をたたえたシャンパンをいただく。

ゆったりとした椅子に深く腰掛け、美女を前にいただく辛口の味は最高だ。

「明日はベルリンに帰ってしまうなんて、寂しいわ」
「うん、しかたないよ。金田と交代しなきゃ」
「クリスマスなのに信じられない。カネダさんもひどいわ」

本当は慶子がやってくるのに対応をしなければならない。
かといって正直に話す訳にも行かないし。

もうすこし休めるはずではあったが、金田の作業進捗のせいにして、
早めに休みを切り上げベルリンへ戻る口実を作ったのであった。

また金田には借りを作ってしまったな。
ウソをつく時は普段よりも口が滑らかなのは何故だろう。

「君の息子の具合はどうだい」

少し憂い顔の彼女も話題が自分の子供の事になると、すこし嬉しそうな笑顔を見
せた。

後半も相変わらずドタバタとした印象は拭えないが、それなりに楽しめた
ミュンヘン最後の夜であった。
© 渡辺 田中 24
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