第11回  憂鬱

「あの、山並は? 家からも見えたよね」「ああ、あれはアルプスよ」白く雪をを頂いた山並が美しい。
南に伸びる街道に進めば風光明美なドイツ有数の山岳リゾートが広がる。

「そっちの方にも行ってみたい?」
「うーん、今回はちょっと時間がなくて、、、」

「あら、モニカからはゆっくりできると聞いていたけど」
「うん、ちょっと仕事がトラブってね」

「ふふふ、日本人は働き者ね。もうすぐクリスマス休暇だというのに」
「まあね」

モニカ、ゼナとのいびつな三角関係をこのままにしても、まずい気もするし、
慶子の事も頭から離れない。

ーーーー 回想 ーーー

彼女からのメールをダブルクリックしたその内容は、、、

「カツヤ、元気? ちっとも連絡くれないのね。忙しいのはわかるけど、、、
ワタシ、妊娠したわ、、、、」

ウソだろ。これは何かの冗談か?

3ヶ月前の業務連絡で帰国した時に相模原で再会して、その夜は彼女のアパート
へ。
彼女は三つ年上の姉と同居しており、
あの時はたしか、お姉さんが気を効かせてくれて、友達の所に泊まりに行ったん
だったよな。

病院勤務の彼女にはピルを手に入れるのは難しくない。自分で使う分と頼まれれ
ば友達の分も持ち出しているようだ。

悪く言えば、横流しだが、彼女にしてみれば、利益を上げている訳ではなく人助
けらしい。
実費だけもらうと言っていたな。

そんな彼女自身も広瀬がコンドームを嫌がるので、ピルは服用していたはずだ。
あの時期はどうだったのか、それは彼女のみぞ知るだが、、、

「前に貰ったメールでは、日本に帰って来れないようだから、ワタシがそっちに
行くわ。
いいんでしょう?とにかく連絡ちょうだい、、」

こっちに来る? 妊娠した女、男の元に何をしに来る? ほっそりした色白の体
に巨乳、
愛らしい顔つき、思い出しても勃起するような女だが、妊娠となると話は別だ。
どんな事になるのか、憂鬱になった。

ーーー 回想終り ーーー

その後、彼女には仕事にかまけてて連絡を取っていない、というか、無視に近い
態度を取っている。まあ、大丈夫だろう。

「本当に仕事なの?」
「えっ!」

慶子の言葉の様にも思えるその一言に広瀬はどきりとした。
記憶と現実が交差する一瞬であった。

「私のと事でしょう?」
ゼナは広瀬がベルリンへ早々に引き上げる原因の一端をそう思っているようだ。

「関係ないよ。さあ、今日は楽しもう」
にっこり微笑んで、そう言うと、彼女の右頬にキスをした。

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モイシェン駅で車をパーキングに止めて、Sバーンで市内に向かう。
中心部はUバーンに乗り換えて移動した方が便利だそうだ。

旧市街のマリエン広場には由緒ある建物が立ち並び、観光には外せない場所だ。
青空に天を突く塔の元に人々が集まっていた。

「あれは?」
「仕掛け時計なのよ」

腕を組みながら、歩く二人の姿はどういう風に見えるだろう。
オペラの切符を買いに行くと、「シュトュデント?」などといわれる広瀬と
美しい妙齢の婦人、ゼナ。

活気に満ちた広場を後にして、アルテ・ピナコテークを巡る。
昼下がり静かな美術館は恋人たちの憩いの場だ。

ゼナがにっこりと広瀬を見上げると愛おしさが込み上げてくる。
周りの雰囲気にあわせる様に、軽く唇を合わせる。

「いい絵があるね」
「そうね」

見どころの古典絵画をたっぷりと堪能したところで、二人が向かった先は
© 渡辺 田中 24
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